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little tenderness of the waiter

バールに灯ともる頃、
いや、心に灯がともる時、か・・・

思いがけず、
誰かのちょっとした優しさに触れて、
心に灯がともる、そんな事がある。

乙女の心に、ポッと灯が・・・

いやいや、乙女だけじゃない。
男子にだって、そういう出来事はあるさ。

そして時には、
男同士でも・・・。



その日、僕はいつも演奏している某レストランで、
ムーディーにピアノを弾いていた。

その店では30分のステージを、
休憩を挟んで4回行うのだが、
その時は4回目、最後のステージ。

それもあと5分ぐらいで終わる、
そんな時に、とあるイケメンのウェイターが
僕の耳元で囁いた。

「今日誕生日のお客様がいらっしゃって、
 もうしばらくでケーキが出るので、
 そしたらバースデーソング弾いてもらえませんか?」

こういうお店では、よくある展開。

「いいですよ。」

そしてポロポロ弾きながらケーキが出てくるのを
待っていたのだが、なかなか出てこない。

・・・というのも、
その、お誕生日テーブルの会話が弾んでいるため、
食事が終わりそうで終わらないから、
ケーキが出せないのだ。

で、本来なら演奏終了の時刻になったが、
まあ、もうすぐケーキも出てくるだろう、と
そのまま演奏を続けていた。

結局、ケーキが出てくるまでに、
15分ほどかかってしまった。

でも無事にバースデーを盛り上げ、
15分延長で演奏終了。

帰り際、さっきのウェイターの彼に
軽く挨拶しようと思ったが、
彼は接客中だったのであきらめ、
そのまま裏へ行き、
スーツからアメカジに着替え、ささっと外へ出た。

「遅くなっちゃったなー。
 急いで帰らないと・・・。
 滝川クリステルに間に合わないっ。
 それにしても、今日は寒いな・・・。」

と、早足で歩き始めた。

すると、しばらく経って後ろの方から、

「あのー、すいませーん。すいませーん。」

と、やや大声。やや叫び声。

えっ、もしかしてオレのこと?

と、後ろを振り返ると、
さっきのイケメンウェイターが、
走って僕を追いかけてくる。

あれ?忘れ物でもした?

と思ったら、
彼は近づいてきて、こう言った。

「さっきはありがとうございました。
 時間、遅くなっちゃってすいません・・・。」

そして彼は、それだけ言って、
また走って店に戻って行った。

え?それだけ言うために、
わざわざ僕のことを追いかけて来てくれたの?

北風だって吹いているというのに?

お店はまだ営業中なのに?

男同士なのに?



その日は北風が冷たくて、
いよいよ冬が近づいている、と思わせる、
そんな寒さだったが、
彼のそんな行為のおかげで、
帰り道ずっと、
僕の心には、ほんのりと灯がともった。

もし自分が女だったら、
惚れてるかも・・・って、思った。

by boppuccino | 2007-11-17 23:59 | story